「再建手術後のフォローアップ検診を欠かさず受けましょう」埼玉医科大学総合医療センター 形成外科・美容外科助教 山川 知巳
2019.11.7
「再建手術後のフォローアップ検診を欠かさず受けましょう」
山川 知巳(やまかわ ともみ)
埼玉医科大学総合医療センター 形成外科・美容外科 助教
術式:
・インプラント
・自家組織(穿通枝皮弁、広背筋皮弁)
標準手術時間:
・エキスパンダー挿入 一次再建 1.5時間、二次再建 1時間
・インプラント入れ替え 1.5時間
・穿通枝皮弁 8時間
・広背筋皮弁 6時間
標準入院日数:
・エキスパンダー挿入 1~2週間
・インプラント入れ替え 1週間~10日
・穿通枝皮弁 2~3週間
・広背筋皮弁 2週間
乳頭・乳輪再建の時期:
乳房再建の半年後が目安
術式は、皮弁の立ち上げ、皮膚移植など
連携病院
三井病院(川越市)(金曜日)
女性だから患者さんと共有できるものがたくさんあります
医師を志した当初は、眼科か産婦人科に専門を絞るつもりでしたが、研修医のときに形成外科の手術をみて、さまざまな部位の機能や整容性の回復をめざす形成外科の役割に大きなやりがいと面白さを感じ、いまの道へと方向を転換しました。
外科系ではまだまだ女性医師の少ない時代で、患者さんからも頼りなく感じられているのかなぁと思うことも少なくありませんでしたが、乳房再建に関しては女性医師が担当することに安心感を抱いてくださる患者さんも多く、女性という利点を感じながら治療に取り組んでくることができました。男性医師のほうが信頼できそうという方もおられるので、あくまでそこは人それぞれですが、女性だからわかる気持ちの揺れ動きや下着の悩みなど、患者さんと共有できることは実際にたくさんあります。
内臓の手術とは違って、身体の表面に傷が残る乳がん手術では、傷が癒えた後も手術を受けた現実と日々向き合うことになります。人前で身体を見せるのが辛く、温泉旅行に誘われても断る理由を探すようなことが続くと、付き合いの悪い人だと思われているんじゃないか・・・などという思いが重なり、次第に消極的な生き方を選んでしまう方は少なくありません。乳がんになったことを少しでも忘れて、積極的に人生を楽しむことができるのであれば、それだけで乳房再建にはとても大きな意義があると思います。
やりたいと思ったときが“再建のやりどき”
患者さんには何よりもまず、ご自分が乳房再建というものに興味をもち、手術を受けてみたいと思ったその気持ちのまま、率直に受診してみていただきたいですね。インターネット上には豊富な情報があふれていて、自分の中でさまざまにイメージするものもあると思いますが、どんな再建ができるか、どんな術式が適しているかは受診してみてこそわかることです。まずは思い立ったら受診してみてください。初診の場ですぐ意思決定する必要はありません。その日は一度自宅に戻り、一晩二晩考えてみて、気が乗らなければやめてもいいし、やっぱり再建したいと思ったらまた来ていただくというくらいの感じでいいと思っています。まさに再建は、やりたいときがやりどきなのです。
医師として心がけているのは、もちろん患者さんのご希望に沿った再建を実現することです。とはいえ、医師にもすべての希望を叶えられるわけではありません。なぜ希望の方法では難しいのか、ほかにどんな方法がとれるかなど、できる限りの情報を提供することで、患者さんの理解と納得を得ていく時間を大切にしたいと思っています。
形成外科でのフォローアップは決して欠かさないようにしましょう
乳房再建手術を手掛ける病院が全国に広がり、患者さんが大都市部まで出かけていかなくても手術が受けられる環境が整ってきました。ただ、たしかに同じ病院で“一次再建”、すなわち乳がん手術から再建手術までひとつながりで受けられれば理想的ですが、なかには乳房再建手術にあまり慣れていない病院があるのも事実です。乳がん患者さんには、まず乳がん手術を受け、そこから改めて再建に向けて情報収集を行うという選択肢もありますから、決して再建手術を焦る必要はありません。その意味では、乳がん手術から時間をおいて行う“二次再建”をしっかり行える医師を全国にたくさん育てていくことが、私たち医療者側の大きな課題です。
逆に、乳がん治療から再建まで同じ病院で受けることの利点として、年に1~2回の乳がんのフォローアップ検診の際に形成外科にも立ち寄ってもらいやすいということがあります。再建手術を別の病院で受けてしまうと、不具合を自覚しない限りなかなかフォローアップには行かないという人が実は少なくありません。しかし特にインプラントでの再建の場合は、被膜拘縮などの合併症や、問題となったBIA-ALCLの早期発見などのためにも、定期的な検診は欠かさないようにしていただきたいと思います。
またインプラントでの再建は、時間の経過とともに胸の形やバランスなどが変化してくることもありますので、私たち医師にも患者さんのことを長期にわたって診ていきたいという思いがあります。しばらく検診に行っていないという方も、決して敷居が高いと感じる必要はありませんので、ぜひとも毎年受診してみるようにしてください。
(取材:2019年7月13日)
掲載場所:エンパワリング ブレストキャンサー(E-BeC)
「再建医の声」欄 http://www.e-bec.com/archives/
※E-BeCは「乳房再建手術」の正しい知識の普及と乳がん患者さんのQOL向上をめざして活動するNPO法人です。
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