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「がん治療の前から口腔ケアを始めましょう」百合草 健圭志

2017.5.31

適切な口腔ケアは、患者さんのQOLはもちろん予後にもダイレクトに影響するものです

静岡県立静岡がんセンター
歯科口腔外科部長 百合草 健圭志(ゆりくさ たけし)

がん治療中にはさまざまな口のトラブルが起こりやすく、痛みの辛さなどで治療の継続が困難になることも珍しいことではありません。
こうしたリスクを少しでも軽くするには、がん治療の開始前に歯科医を受診し、必要なケアを受けておくことがきわめて有効です。歯科医に診てもらうことで自分の口のなかがどんな状態にあるかがわかり、がん治療中にトラブルが起きても適切に対応することができます。
抗がん剤に関するある有名な臨床試験は、副作用などを理由に予定よりも投与期間が延びたり、投与量を減らした場合と、一切投与しなかった場合の死亡率が変わらなかったと報告しています。抗がん剤は、適切な量を適切な期間投与してこそ効果が得られるものなのです。もし口腔内の管理ができていなかったために副作用が辛くなり、適切な治療が行えなくなると、患者さんのQOLを大きく下げるだけでなく、予後にも大きく影響してきます。十分ながん治療には、適切な口腔ケアを欠かすことができません。
また、乳がん手術の後に起きる転移再発には骨転移が多いことが知られていますが、骨転移の進行を抑える骨吸収抑制薬(ビスホスホネート、デノスマブ)には、顎(あご)の骨が壊死しやすいという副作用が報告されています。顎の骨は歯ぐきのすぐ下にあるため、口腔内に細菌が繁殖していると直接悪影響を受けてしまいやすいのです。こうしたことから、現在では乳腺外科でも治療前の口腔ケアの重要性が広く認識され、乳がんの診療ガイドラインでも骨吸収抑制薬使用前の歯科受診が推奨されるようになっています。
現在のがん治療では、がんそのものの治療だけでなく、患者さんやご家族の苦痛や負担を軽減する「支持療法」の考え方が重視されるようになってきました。口腔ケアは患者さん自身で行うことのできる支持療法のひとつです。いまや、がんは長くつきあっていく病気となりました。ご自身のQOLを維持するためにも、口腔ケアの重要性を知り、上手なセルフケアの方法を身につけていただきたいと願っています。

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